「エンヤ、エンヤ」の掛け声と、賑やかな祭囃子。巨大な鯛など14台の巨大な曳山(やま)がまちをねり歩く、あの"お祭り"の秋になりました。約400年の歴史があり、毎年11月2、3、4日に唐津神社の秋季例大祭「唐津くんち」のまちに、新たな"名物"が芽吹いているそうなんです。

画像

 

人の"さが"をくすぐる
化粧品産業のまちを視察


佐賀県唐津市と聞いて思い浮かべるもの。唐津くんちのほかに探検隊が思い付くのは、朴訥とした出で立ちが酒器にぴったりの唐津焼に、新鮮な呼子のイカ。名物・唐津バーガーの虜という方もいらっしゃるかもしれません。しかし、観光としての魅力だけにあらずなのが、昨今の唐津なんです。

 

実は化粧品産業の新たな製造・発信拠点として国内外へ向けて、たくさんのコスメやブランドを生み出している場所であることを、知っていましたか?その背景には、唐津市・玄海町を中心に、国際的なコスメティッククラスターとして、美容健康産業や地域活性化を支援、2013年に発足した「ジャパン・コスメティックセンター(JCC)」の存在があります。

 

JCCは、佐賀で育まれた天然由来の化粧品材料(地域資源)とメーカーやスタートアップ企業、研究・教育機関などを繋ぐ立場に立ち、地域の素材が光る新たなブランド・コスメ・PRイベント展開に貢献しています。今まで開発に携わった約90種類のコスメからは「ジャパンメイド・ビューティアワード」を受賞した優秀コスメも誕生しているという、唐津発のコスメの今です。

 

つい足を運んでみたくなるし、食べたくなる、手にしてみたくなる。そんな人の"さが"をくすぐる魔法の言葉「ご当地」とつくコスメが気になって、 "陶器肌の佐賀美人"を目指すべく、探検隊は唐津視察へ向かうことにしました。

 

画像

 

 

肌と地域を輝かせる
再生農地での新たな試み


ご当地グルメやスポットに誘われ、迷える探検隊。そんな珍道中になりかけた視察の案内をかって出てくれたのは、唐津市経済観光部コスメティック産業課の新郷健太さん。コスメ輩出・発信地としての唐津の魅力を教えてくれました。

 

新郷さんがまず連れ出してくれたのは、JCCが運営する無農薬農場「TOCOWAKAファーム」。化粧品原料となるみかん・ハーブ等の試験的な栽培を担う農園です。山中を上にうえに進み、青々と広がるまちを見渡す丘にある、元みかん農園であったこの場所。耕作放棄地の再利用にも取り組むJCCが、再生を手がけた農地のひとつでもあります。

 

画像

 

温暖かつ、年中通る唐津の風の中で、まるで自生をしているような、自然な植物の姿が印象的な農園。ふわっと風が吹くたびに、どこからともなくローズゼラニウムの甘く爽やかな香りが漂う、心地の良い環境。

 

定期的な水やりや草刈りなど自然に近い管理方法により、みかんの花・ホーリーバジル・ニガヨモギを代表とする栽培可能な品種を中心に、約20~30種類を揃えています。ここで収穫された植物はコスメの素材として出荷され、実際にみかんの花を使ったコスメブランドの立ち上がりに、身を結んだこともあったそう。

 

「ここで育たないものは、栽培していません。無理して土地に合わせる必要もなく、この土地らしい植物と、コスメが育つといいですね」。そう語る新郷さんの話は度々、農園を訪れる元気な農家の方々によって中断されることもしばしば。

 

過疎化に悩む地域の人々の協力のもと運営されるこの場所は、イキイキとした人的な交流も生んでいるそう。唐津のコスメが美しく輝かせるのは、女性の肌のみにあらず、のようです。

 

画像

 

JCCは原料開発室も佐賀大学との共同開発のもと所有し、素材の鮮度が生きる速やかな精製化を叶える施設も充実させています。芳香蒸留水や精油を抽出するラボでは開発中のルームフレグランスの香りをお試しさせてもらうことに。

 

香り立ったのは国産初のグレープフルーツ「さがんルビー」。

 

巧妙に調合された端正なフレグランスとはうって変わり、目の前でグレープフルーツがクラッシュされたような、新鮮で瑞々しい香りが広がりました。

 

唐津はほかにも、白いちご、ゆず、椿など、食物ともなる豊富な農作物素材に恵まれるまち。

 

その収穫からすぐに、製造・原料・検査・物流・販売を一貫して県内で賄える優れた機関の充実こそ、鮮度を感じる上質なコスメを生み出すというわけです。
 

画像

 

地域に根付ざしたコスメづくりには
手間の分だけ人が集う


視察の最後に訪れたのは、国産ナチュラル・オーガニック化粧品メーカーの株式会社クレコスの工場「FACTO(ファクト)」。

 

コスメ産業の集積地を目指す唐津市が誘致した、農作物の原料化から最終製品までをワンストップで実現する会社です。

 

創業以来、全国各地の自然素材を化粧品に加工してきた経緯から、その土地の個性が感じられるコスメを開発。現在は全国の地域のプレイヤーたちと、コスメブランドを創る事業に取り組んでいる同社です。

 

「天然素材をメインにした商品づくりって、ものすごく難しいんです。

それを市場に出せるクオリティにまで仕上げるのは、普通の化粧品よりも圧倒的に労力がかかります」。

 

長年携わってきたナチュラル・オーガニック化粧品の開発の苦労を語ったのは、株式会社クレコスの代表・暮部達夫さん。素材に依存する同手法のコスメは、その年の素材の出来や収穫量に左右される不安定な側面を持つそう。

 

唐津の素材であるローズ、ホーリーバジルの商品化も行なっている同社ですが、毎年安定した香りのものが出来上がることはないそうです。

 

画像

 

それでも無添加な商品づくりに挑み続けるには、わけがあるそうで。

 

「安定性のいい活性剤を入れるのは簡単です。しかし、僕らには防腐剤を入れないポリシーがあります。安定性の面だけで見れば、とても効率の悪い商品づくりになっているのは承知の上です」。

 

暮部さんが目指すのは、無添加による肌の安全性を守るコスメの提供のみならず、いい素材を100%の状態で生かし切るモノづくり。だから、素材がコスメに一層生きるよう、添加物は使用しない。

 

素材ありきで新商品やブランドの企画を立てるという、大手企業とは相反した発想とアプローチです。

 

「コスメの"A面"はもちろん、人を美しくする役目があります。

"B面"はモノづくりの背景や社会への課題を、コスメにエッセンスとして加え、どう発信するかだと思うんです。僕らの会社でいうと、地域の素材か生かしたコスメづくりがそのひとつ。

そのコスメは地域に意識を向けてもらうための、メッセージツールです。」

 

地域にコミットした商品づくりには、商品に興味を持ってくれた人が場所に集い、赴くような、従来のコスメとは違うアクションが生まれるのが、何よりの面白みだそう。

 

話は変わりますが、佐賀県のだご汁には、小麦粉で作った平たい団子をはじめ、ごぼう、にんじん、しめじ、豚肉入りと具沢山。農作業が忙しく、食事の手間さえ省きたいという農家が、手軽に食べられる食事として広まったそうです。

 

しかし、その地で育まれた野菜に、団子を練ってくれた母に、誕生のストーリーに思いを馳せる。そうすればなんだか、おいしくってたまらないんじゃないかと思います。

 

唐津で生まれた植物や作り手、その背景を知れば、コスメを手にしてみた時、きっと格別の気分が、味わえるのではないでしょうか。